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福岡地方裁判所 平成元年(わ)1332号 判決

本店の所在地

福岡市城南区別府四丁目二番一号

有限会社商工業振興協会

(右代表者代表取締役 古賀保平)

本籍

福岡県朝倉郡朝倉町大字古毛一七一八番地

住居

福岡市城南区荒江一丁目二番一号

会社役員

古賀保平

昭和四年七月一二日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官栞名仁出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社商工業振興協会を罰金二五〇〇万円に、被告人古賀保平を懲役一年二月にそれぞれ処する。

被告人古賀保平に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、その二分の一ずつを各被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社商工業振興協会(以下「被告会社」という。)は、福岡市城南区別府四丁目二番一号に本店を置き、商工業者の資格取得講習会の実施等の業務を営むもの、被告人古賀保平(以下「被告人古賀」という。)は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人古賀は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、事業収入の一部を除外し、架空の印刷費や通信費を計上して、簿外預金を設定するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  昭和六〇年八月一日から同六一年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得額が三八八〇万七二八四円であつたにもかかわらず、昭和六一年九月二九日、福岡市早良区百道一丁目五番二二号西福岡税務署において、同税務署長に対し、その所得額が零で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一五七七万二四〇〇円を免れ

第二  昭和六一年八月一日から同六二年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得額が八八一九万六六五五円であつたにもかかわらず、昭和六二年九月二八日、前記西福岡税務署において、同税務署長に対し、その所得額が零で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三六〇六万四四〇〇円を免れ

第三  昭和六二年八月一日から同六三年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得額が九九二〇万二七八九円であつたにもかかわらず、昭和六三年九月二八日、前記西福岡税務署において、同税務署長に対し、その所得額が五三万一六二三円でこれに対する法人税額が二万四五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、被告会社の右事業年度における正規の法人税額四〇六九万二二〇〇円と右申告税額との差額四〇六六万七七〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示各事実について、被告人両名の当公判廷における各供述のほか、記録中の証拠等関係カード(検察官請求分)に記載されている次の番号の各証拠

判示全事実について

1、5から7まで、11から27まで

判示第一の事実について

2、8(平成二年押第一八号の1)

判示第二の事実について

3、9(平成二年押第一八号の2)

判示第三の事実について

4、10(平成二年押第一八号の3)

(法令の適用)

判示各所為は、各事業年度ごとに法人税法一五九条一項(被告会社については、更に同法一六四条一項)に該当するところ、被告会社については情状に鑑み同法一五九条二項を適用し、被告人古賀については所定刑中懲役刑を選択することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告会社については同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内において罰金二五〇〇万円に、被告人古賀については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内において懲役一年二月にそれぞれ処し、被告人古賀に対し同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文によりその二分の一ずつを各被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、被告会社の代表取締役である被告人古賀が、同会社の三期分の各所得の申告に当たり、合計約二億二六〇〇万円の所得を秘匿し、合計約九二五〇万円の法人税を免れた事犯であつて、秘匿所得額及び逋脱額はいずれも多額であり、逋脱率も九九・九七パーセントと極めて高率であることに鑑み、被告人両名の刑事責任は重いといわなければならない。

その犯行は、被告人古賀が、老後の生活と、被告会社の業務の一つである海外宝くじに対し将来法規制が実施されれば、収入が減少するに至る事態に備えて、個人の蓄財を目的として敢行した私利私欲に基づく犯行であり、本件で逋脱した所得は、すべて被告人古賀が領得し、自己の株式投資等の資金に充てていること、その手段方法は、被告会社の資格取得業務等による売上げや、外国宝くじ協会からの補助金を除外し、かつ、架空の経費を計上して経費の水増しを行ない、そのため、取引先から虚偽の領収書を発行して貰うなど、計画的で巧妙な犯行であることに照らし、犯情悪質というほかはない。

従つて、本件脱税行為は、単に申告納税制度をないがしろにした上、国庫に対し多額の損害を与えるのみならず、誠実な納税申告者に対し納税負担の不公平感を助長させ、納税意欲を失わせる虞れのある事犯であることをも合わせ考慮すると、本件については厳格な処罰が考えられるところであるが、一方、被告会社は、本件摘発後、進んで修正申告をし、本税、追徴税、重加算税等を全額納付ずみであること、被告人古賀には前科前歴がなく、本件につき深く反省悔悟していること、税務当局の調査に対しては勿論、検察官の取調にも協力し、真相をありのままに告白していること、その他被告人古賀の年齢、健康状態、今後の被告会社における納税経理面での是正処置の状況等、

被告人両名にとつて酌むべき情状があるので、これを斟酌すると、被告人両名に対しては主文の刑を量定して刑責を明確にすると共に、被告人古賀に対してはその刑の執行を猶予するのが相当であると思料した。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 森田富人)

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